慰謝料を請求「しない」選択肢のメリットとリスク

不倫が発覚すると、多くの人は「慰謝料を請求すべきかどうか」で強く悩みます。しかし、すべてのケースで請求することが最善とは限りません。状況によっては、あえて請求しないほうが精神的・現実的に有利になることもあります。この記事では、慰謝料を請求しないという選択が持つメリットとリスク、逆に請求した場合に起こり得る問題について、具体的なケースを交えながら分かりやすく解説します。

はじめに

不倫や不貞行為が発覚したとき、多くの人はまず「慰謝料請求」を思い浮かべます。しかし、すべてのケースで請求するのが最善とは限りません。状況や目的によっては、「あえて慰謝料を請求しない」という選択が、精神面や今後の生活にプラスに働くこともあります。

ここでは、慰謝料を請求しない場合のメリット・リスクを整理し、自分に合った判断ができるよう解説します。

慰謝料請求を「しない」ほうが賢明な場合とは？

配偶者の不倫が発覚すると、多くの方がまず「慰謝料を取れるかどうか」を考えます。しかし、すべてのケースで慰謝料請求が適切とは限りません。状況によっては、あえて請求を避けたほうが現実的なこともあります。

では、どのようなケースで「請求しない」という判断があり得るのでしょうか。

1.　不貞行為を裏付ける証拠がなく、配偶者が不倫を認めていない場合

不倫の事実に確信はあっても、明確な証拠が揃っていない、あるいは配偶者や不貞相手が一貫して否定しています。このようなケースでは、慰謝料請求を強行することが必ずしも得策とは言えません。

通常、慰謝料を求める際はまず任意での支払いを促しますが、相手が応じなければ最終的には裁判に進む可能性があります。裁判になれば、裁判所は「証拠」を基準に判断するため、請求する側が不貞を立証しなければなりません。

裏付け資料が不十分な場合、

• 請求自体が認められない

• 調査費用、弁護士費用、時間的・精神的負担だけが増える

といったリスクが高くなります。

そのため、証拠がないまま争うよりも、「請求をしない」という選択肢を視野に入れるほうが現実的な場合もあるのです。

2.　配偶者にのみ責任があるケース

不倫の状況によっては、配偶者だけに落ち度があり、不貞相手へ慰謝料を求められないことがあります。

たとえば、

• 配偶者が相手に対して無理やり肉体関係を持った場合

• 配偶者が自分の身分について「独身だ」と偽って近づいた場合

などが該当します。このようなケースでは、不倫相手が「加害者ではない」と評価されるため、慰謝料の対象にならない可能性が高くなります。

さらに状況によっては、逆に不倫相手の側から慰謝料請求を受けるリスクもあります。
そのため、まずは配偶者から当時の経緯や背景を丁寧に確認しつつ、専門家である弁護士と相談しながら慎重に対応を進めることが重要です。

3.　「家庭の空気を乱したくない」——そのとき慰謝料請求は最優先ではない

不倫の事実を知った瞬間、心の中は激しく揺れ動きます。しかし、すべての人が離婚や 慰謝料請求に踏み切るわけではありません。

むしろ、家庭を守るために、あえて大きな対立を避けようとする人も多く存在します。

たとえば、子どもがまだ小さい家庭では、「これ以上家庭内の緊張を増やしたくない」「夫婦としてやり直したい」という思いが強く働くことがあります。

このような状況では、法的には慰謝料を求める余地があったとしても、その行動が夫婦関係に新たな亀裂を生む可能性は否めません。

慰謝料を請求するということは、配偶者に責任を明確に問う行為です。当然、相手は少なからず防御的になり、関係の修復が難しくなるケースもあります。

とはいえ、「何も対処しない」という選択だけが正解ではありません。夫婦関係を維持しつつ再発防止を図る方法もあります。

• 再度の不貞行為を行わない旨の誓約書を作成する

• 関係再構築のためのルールづくりを行う

• 不倫相手に対してのみ慰謝料請求を検討する

など、夫婦間の火種を最小限に抑えながら取れる対応も存在します。

何を最優先にするか、家庭の平穏か、責任追及か。その判断によって、選ぶべき手続きは大きく変わってきます。

4.　請求しても損をする？慰謝料に潜む「費用倒れ」の現実

不倫問題が起きたとき、多くの人がまず思い浮かべるのは「慰謝料を請求できるのか」という点でしょう。しかし、実際には“請求しないほうがむしろ合理的” という状況も少なくありません。

最大の理由として挙げられるのが費用と回収額のバランスです。

裁判所が認める不倫慰謝料の水準は、一般的に数十万円から高くても300万円程度に収まるのが実情です。しかも、その金額は「精神的苦痛の程度」「婚姻関係が破綻したかどうか」など、個別事情によって大きく左右されます。

そのため、期待していたほどの金額にならず、結果として“数十万円で終わる”というケースも珍しくありません。

さらに深刻なのは、相手に支払能力がない場合 です。たとえこちらが裁判で勝ったとしても、相手に資力がなければ実際に支払いを受けられない可能性があります。

「勝ってもお金が手に入らない」という状況は現実に起こり得ます。

一方、慰謝料請求には、以下のような負担がつきまといます。

• 調停や訴訟にかかる費用

• 証拠整理や手続きのための時間

• 精神的ストレスや家庭への影響
  
  

こうしたコストを総合して考えると、「労力に対し、得られるものが小さすぎる」と判断され、あえて請求を見送る選択が合理的な場合もあるのです。

慰謝料請求は“やれば必ず得する”という単純なものではありません自分の状況に照らし合わせ、冷静に損得勘定を行うことが、後悔しないための重要な視点になります。

5.　W不倫の落とし穴——請求がブーメランになるケース

不倫相手も既婚者である、いわゆるW不倫。

一見すると「こちらにも被害者がいるのだから、慰謝料請求は当然」と思われがちですが、実際には慎重な判断が求められます。

なぜなら、相手側に慰謝料を求めたことで、こちらの配偶者が相手配偶者から慰謝料を請求されることで、いわゆる反対請求が発生する可能性が高いからです。

しかも問題はそれだけではありません。夫婦の状況によっては、こちら側が支払う慰謝料のほうが むしろ高額になる 場合さえあります。

たとえば次のような事情があるケースです：

• 相手夫婦の婚姻期間が長く、精神的ダメージが大きいと評価されやすい

• 相手夫婦に未成年の子どもがいる

• 不倫関係を主導したのが自分の配偶者側である

• 相手配偶者の被害がより深刻だと認定される可能性が高い

こうした要因が重なると、あなたが相手に請求した慰謝料より、配偶者が支払う金額のほうが上回るという状況さえ起こり得ます。

W不倫の場合の慰謝料問題は、単純な被害者・加害者で割り切れません。請求に踏み切る前に、反対請求が起きた場合の影響やリスクを見極める必要があります。

特にW不倫は法的判断が複雑になりやすいため、弁護士に相談しながら進めることが不可欠です。

勢いで請求してしまうと、思わぬ形で不利益を受ける可能性もあるため、冷静な検討が求められます。

「慰謝料を請求しない」という選択のメリット

1.　精神的負担が減る

慰謝料請求は、単なる要求書の送付では終わりません。証拠の精査、相手方との交渉、弁護士との打ち合わせなど、想像以上にエネルギーを使います。

不倫被害という大きなショックを受けた直後は、 「戦う体力が残っていない」という方も多く、法的手続きが二次的ストレスになることも珍しくありません。

請求しないという判断は、心の回復を優先するための防御策と捉えることもできるのです。

2.　夫婦関係を修復しやすい

離婚ではなく修復を目指す場合、慰謝料請求は夫婦の関係に微妙な影響を与えることがあります。

特に外部の第三者（不倫相手）に請求する場合、配偶者が罪悪感や負い目から、逆に防衛的・攻撃的になる例もあります。

「過去よりもこれからを優先したい」そんな思いが強い夫婦にとっては、余計な摩擦を避けるという点で、請求しないほうが関係再建にプラスに働くことがあります。

もちろん、まったく対応しないのではなく、誓約書の作成や行動ルールの明確化といった慰謝料以外の改善策を選ぶケースも多く見られます。

3.　相手との関係を速やかに断ち切れる

慰謝料請求をする以上、示談交渉・支払い管理・連絡のやり取りが一定期間続くことになります。

「声も聞きたくない」「顔を見るのも無理」というほど精神的苦痛が強い方にとって、これは大きな負担です。

請求を行わなければ、一切の接点を持たずに決別できるというのは大きな利点と言えるでしょう。

心的外傷が強い方ほど、こちらのメリットは見過ごせません。

4.　いったん保留して、状況が落ち着いてから判断できる

慰謝料請求には原則3年の時効があります。

すぐに行動する必要がないため、「今は動けない」「冷静に判断できる状態ではない」という場合、一時的に請求を見送るという柔軟な選択が可能です。

弁護士の実務でも、「まずは心身を立て直してから」「夫婦の状況を見ながら」タイミングを計って請求するケースは少なくありません。

請求しないことが永遠の放棄”になるわけではない点も、心理的な負担を軽くする要素です。

慰謝料を請求しないという選択が抱えるリスク

1．経済的補填を受けられない

言うまでもなく、請求しなければ一円も戻りません。不倫によって受けた精神的苦痛を金銭で補う機会を、自ら手放すことになります。

2．相手が責任を取らなくてよいと受け止める可能性

慰謝料請求がなかったことで、加害者側が「大ごとではなかったのだ」と誤って理解してしまうケースがあります。

夫婦関係を再構築しようとする場面では、責任の線引きが曖昧になり、後々の関係性に影を落とすこともあります。

3．再発防止の抑止力が弱まる

慰謝料請求には、法的責任を問うという重みがあります。そのプロセスが省かれると、不倫相手・配偶者ともに「痛み」を伴わずに終わってしまい、結果として再発防止の効果が弱くなることがあります。

4．離婚交渉で使えるカードが減る

離婚を選択した場合、慰謝料は重要な交渉材料となります。請求しないことで、財産分与や親権など、他の条件面で優位に立ちにくくなる可能性も否めません。

まとめ：大切なのは目的に合った選択

慰謝料請求は権利であって義務ではありません。重要なのは、あなたがこれからの人生で何を優先し、何を守りたいのかという視点です。感情・法的メリット・今後の生活、この3つを総合的に見比べ、自分にとって最も合理的な選択をすることが大切です。どの道を選んでも、あなたの未来を軽くし、前に進む力になるのであれば、それが最善の判断と言えるでしょう。